夢の終わりに

第 11 話


ベッドで上半身を起こしたルルーシュは、二日酔いのような酷い顔をしていた。それでも美形は美形。さまになるから羨ましい。俺がそんな顔したら、キモイ、オヤジ臭いとか言われそうだ。

「あ、起きたんだ。水飲む?」
「ああ、飲む。・・・起きたんだ?じゃないだろ、起こすつもりがないなら、もう少し声のトーンを落としたらどうだ?」

声だけでわかる。
ものすご~~く不機嫌だ。
これは相当具合が悪そうだな。

「あ、ごめん」
「わりぃな。忘れてた」

すっかり忘れて普通の声でしゃべっていた。
早朝にこれだけ騒げば煩いだろう。まあ、ここはコテージだから周りには迷惑をかける事は無いが、壁の薄い安宿なら壁ドンされていたかもしれない。怖い怖い。祭りの影響で安宿が取れなくて、運良く開いていたこのコテージに泊って大正解。あの芸人たちは昨日の朝まで隣のコテージに泊っていたが、昨日チェックアウトしてから芸を行い、打ち上げ後に別れたその足でもう次の場所へ向かってしまった。どんだけ体力あるんだよと、呆れてしまう。
ペットボトルの水を煽ったルルーシュは、まだ半分寝ぼけていて、スザクがかいがいしく世話をしていた。寝癖に気付き直したりと、まるでナナリーに接しているルルーシュのようで、きっと弟みたいに思ってるんだろうなとほほえましく思ってしまう。まあスザクはおっさんの俺にも気遣ってくれるいいやつだから、このぐらいもう慣れたものだ。

「ルルーシュは見に行くの?あの映画」
「・・・まあ一応な。団員視点というのは今までにないから、それなりに楽しめるだろう。事前情報を見る限り8割方創作のようだが、皇帝や英雄を主人公にするよりも、ゼロが現れた頃からの団員でありながら大きな役職は持たず、戦後飲食店を営んだ一般人なら、物語にも入り込みやすいだろう」
「つまり、俺たち視点で作られているってことか?」
「今まで出てきた映像や資料からその可能性は高いと見ている。もう一人の英雄といわれた紅月カレンや司令官である劉星刻が上司として登場するのも初めてだろう?」

いつもゼロのサポート役、部下の立場だった者たちが、自分より上に来るのだ。視点が変われば物語も変わって見えるだろう。

「なるほどな~おもしろそうじゃん。スザクも一緒に見ようぜ?」
「・・・そうだね、黒の騎士団の裏側が見れるのは楽しいかもしれない」
「一緒に?この映画の封切りまであと11日あるが?」

元々、色々な偶然で一緒に行動していただけの三人だ。11日後一緒に見るって言う事は、その間も一緒に行動するということで、それをルルーシュは不思議に思ったのだろう。

「ああ、その話なんだけどさ、ルルーシュはこの後どうするんだ?」
「明日にも他へ移るつもりだが・・・」

観光するべき場所は碌になく、店もこじんまりとした田舎町だ。祭りの時期はにぎわい出店も多いが、それが終わった今撤収を始めている。
ようするに普段は何も無いから、滞在する意味も無い町なのだ。

「そういえば、ルルーシュってどこを目指してるの?」
「中華だ。そこから日本に渡りブリタニアへ行く予定だ」
「よし、じゃあ俺もそうしよう!」
「じゃあ僕も」
「は?待て、俺についてくるつもりか?」

二日酔いで歪んでいた顔がますます歪む。
それでも美形は以下略。

「いいじゃんいいじゃん、旅は道ずれ世は情けっていうだろ?」
「お前たち、旅の目的は無いのか?」
「無い!俺の目的は、旅を続けることにある!」

なにせ不老不死。1箇所に長く留れない体質だ。
できれば検問がゆるい国を回るのがいいんだが、パスポートとかは裏ルートでしっかり確保しているから、先進国にも一応行けるのだ。

「僕も目的地は無いけど、日本か、久しぶりだな」
「ま、まて!お前たちバックパッカーだろう、俺とは旅の方法が違いすぎる」

慌てて叫んだルルーシュは顔色をさらに悪くし、口元を押さえた。あー完璧二日酔いですね、吐き気を誤魔化すために俺らに話を合わせてたけど、そろそろ限界らしい。これはさっさと話を切り上げるべきだろう。
バックパッカーは徒歩の移動やヒッチハイクが多い。宿も安宿で、何人かでシェアして借りる事もある。つまり金がない。いや、金があっても出来るだけ使わずに移動を続ける。
だが、ルルーシュは違う。
ルルーシュは俺たちみたいに旅の埃で薄汚れてなくて、身なりもいい。持って歩くのもバックパックではなくキャリーケースだ。
移動方法は主に鉄道。
急いではいないから、こまめに駅を降り、大きめの町に滞在してまた移動するという事を繰り返しているらしい。金持ち坊ちゃんの道楽旅行かと思ったら天涯孤独で、株とかそういうものの取引で大金を手に入れたから、のんびり世界一周旅行をしているのだとか。羨ましい。スザクも今は金があるし、すぐに稼いでくる。俺は日雇いでどうにかまかなっているってのに、この差は何なんだろう。

「なら、僕も鉄道で移動するよ」
「リヴァルはどうするんだ?こいつは金がないぞ」

ぐさりと現実をつきつけられる。
あの頃も二人には勝てなかったが、今も勝てないってどういう事だよ。人生経験はこっちのほうが遥かに豊富なのに。おじさんちょっと泣いちゃうよ?いや、解ってるよ?あの頃と二人は別人なんだって事ぐらいさ!

「リヴァルの分は僕が出すよ。僕、こう見えても結構稼ぎいいんだよ?」
「言われなくても知っている。この三日間さんざん見てたからな」
「ルルーシュだってお金余ってるんでしょ?」
「俺にたかる気か?」

あの頃、つまり俺がまだ人間だった頃の友人。
悪逆皇帝になったルルーシュ
英雄となったスザク
あいつらにそっくりな二人は、学生時代のあいつらのように言い合っていた。

「たかるなんて人聞き悪いな。リヴァルをきみの護衛とか、使用人みたいに雇えばいいんだよ。彼は気が利くしね」
「お前、あっさりというなよ」

長く生きていると不思議な事もあるもんだ。
生まれ変わりって、顔も性格もそのまんまなんだなぁ。
いや、だってここまでそっくりなら絶対生まれ変わりだろ?容姿だけならともかく言動がそのまんまだもんな。全くの別人なら、こうはならないだろ?
あー、もしそうなら世界のどこかにミレイさんの生まれ変わりが?俺の永遠の憧れ、マイスイートハニー!あー、もし会っても、俺は不老不死だからまた片思いで終わっちゃうなぁ。
あれ、それってつまり、俺が死んでもモテモテな美形になれないってことじゃね?今のまま変わらないの?それこそ地獄じゃん!ひでー!

「荷物持ちにもなるし、いろんな国の言葉喋れるから便利じゃない?」
「別に俺一人で十分だ」

うんうん、解ってる。
今まで一人旅だったんだから、見知らぬおじさんと世話焼きお兄さんなんていらないよね。うざいよね。でも、強がってる事もおじさんぐらい生きてるとわかっちゃうんだよ~ルルーシュ君。一人旅、寂しかったんでしょ?知ってる知ってる。おじさんとっくに気づいてる。

「・・・ルルーシュ、駄目?」

スザクは眉を八の字にし、その両目に僅かな滴を溜めていた。
うん、おじさんそれも知ってる。
スザクのそれ、演技だよね、知ってる。
ルルーシュに効くって解ってて、わざとやってるよね。
おじさんぐらい生きていると、君の裏表ある性格だって理解出来ちゃうんだよ。年齢不相応なまでの童顔を最大限に生かして攻撃を仕掛ける、内面真っ黒鬼畜系スザク君に、おじさんちょっと引くことあるんだよ。

「・・・そ、それは、べ、べつに駄目では」
「じゃあいいんだね!?やった!リヴァル、ルルーシュがいいって!!」

ぼら、途端に満面の笑みだ。
これで内面真っ白はあり得ないって。
変わり身の早さにルルーシュついて行けてないぞ。
驚いてキョトンとしてるじゃないか。
怖っ!スザク怖っ!
あの頃もこんなんだったのかよ?俺完璧に騙されてたぜ!?
でも、ルルーシュは仕方ないなって受け入れるんだろ?ほら、苦笑してる。ちょろすぎるぞお前。本当に前世悪逆皇帝か?俺の悪友か?

「よし、じゃあ中華と日本経由でブリタニアな。あと!俺は俺で頑張って金は工面するから!いらない心配はするな!」
「え?無理じゃないかな?」
「無理って言うなよ」
「年齢的にも日雇い仕事での稼ぎは期待できないな」
「いいか、優しいリヴァルおじさんでも傷つくんだぞ、ルルーシュ」

笑いながら言う二人に、俺もつられて笑った。

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